緩むということ

7月から、ロルフメソッドというボディーワークを始めました。ロルフメソッドは、アレクサンダーテクニークやフェルデンクライスに並ぶ、世界3大ボディーワークのひとつです。アレクサンダーは、音楽家の間でもよく知られていますが、ロルフは日本ではまだマイナーなようで、私もチラシを見て初めて知りました。きっかけは、久しぶりに行ったエステで言われたこの一言。

「お客さん、体に力が入っていますね。」

ベッドに横たわっている状態でも力が抜けていなくて、言うなら24時間ずっと力んでいるとのこと。力みについては過去にも、いろんな整体を点々としたことがありますが、全く同じことを言われてきました。

生きていく上で脱力はとても大事です。身体が緩んでいれば、次第に心も思考も緩みます。人間関係も仕事も勉強もスポーツも楽器の演奏も全てうまくいきます。だからピアノを弾くときには脱力を常に意識し、生徒さんにもお伝えしていますが、私自身も力が抜けてるつもりになっているだけで、実のところ全く体感できていないんだなと愕然としてしまいました。

自分が体感できていないことは、人にも伝えられるはずはなく。おまけに、同時期に学び始めた「緩んで弾くピアノ奏法(お豆奏法)」もしっくり身体に落ちていかないので焦りと苛立ちを感じていました。これはいい加減何とかしたい!と本気モード突入です。

そんな時に、ロルフメソッドに出会いました。

ロルフメソッドの詳しい説明は、私が通っている院のホームページにおまかせして、何がどう良いのかについて、私個人の感想を書きたいと思います。

どんなワークなのか簡単に説明すると、私たちの身体をスマホに例えたら、
①一旦リセットして初期化する。
②スマホに搭載してある全ての機能と正しい使い方を学んで100%使えるようにトレーニングする。
といった感じでしょうか。

私たちの身体に話を戻すと、ロルフのワークは、これまで身につけてきたあらゆる身体の癖を一旦リセットして、本来あるべき状態に戻した後、脳に正しい身体の使い方を覚え込ませて、元々私たちが持っている身体のパフォーマンス能力を最大限活かせるように導いてくれます。

私の場合は、1回目のお試し施術だけでもかなり変わりました。ベッドに横たわったときに背中が浮いていたのが、べったり着くまでになりました!こんな感覚は初めてだったので、もう嬉しくて嬉しくてただびっくり!そして帰宅してピアノを弾いてさらにびっくり!指で弾かず、腕全体で弾くという感覚が初めてわかった気がしました。(「指で弾かない」と言う奏法もまたなんじゃそりゃ?!な話ですが、それについてはまた別記します。)

最近、バッハの平均律クラヴィーア曲集の学び直しをしています。まずはプレリュード全曲を弾くことを目標に取り組んでいますが、過去最高に美しい音で軽やかに、そして欲しい音がいとも簡単に奏でられるようになりました。(こんな風に弾きたい、こんな音で弾きたいという具体的なイメージがあれば、それを表現することが楽にできるようになりました。)

今までは、「こういう音色が欲しい!」と思ったら、手の角度を変えてみたり、弾く前、弾いた後の手首や指の動きなどで音色を作り出そうと苦労していました。その結果、癖のある弾き方になっていました。(何度か弾き方の癖について指摘されたことがありますが、欲しい音を出すためついた癖なので、自分でも気になりつつ治すことができずにいました)それが、「何もしない」「弾かない」弾き方が一番楽で、しかもとても純粋で良い響きがするということがやっと腑に落ちてきました。

難しかったパッセージも、数回の練習で弾けてしまったり。手が痛くなるところも楽に弾けたり。もちろんまだまだ弾けない箇所や力んでしまうことはありますが、なぜ弾けないんだろう、どうして固くなってしまうんだろうとじっくり自分の身体の使い方や力が入るポイントを観察していくことで少しずつ解決できるようになってきました。

ロルフ、恐るべし!です。

軽やかな響きも、深く重厚な響きも、とにかくこれまでにない色んな響きを作れるようになったので、表現や解釈のアイデアも自然と湧いてきます。長時間練習していても疲れにくいし、過去最高に弾ける自分が嬉しいので、もっと弾きたいと言う気持ちが高まりました。

ピアノの脱力に特化したレッスンとは違い、ロルフは全身の筋膜を隈無くリリースして初期化するので、一見ピアノ演奏に関係なさそうな部位も本来あるべき状態に戻すと、連鎖的にあちこち緩むせいか不思議と弾きやすくなります。そしてもちろん、ピアノだけでなく、身体をうまく使えるようになるので、姿勢も良くなるし、スポーツも上達するし、意外なことかもしれませんが、毎日元気に動けるようになるので、色々なことに挑戦するエネルギーが湧いてきます。私は、だから夫にも勧めました、笑。

優れたピアニストも私たちも、身体のつくりは全く一緒(若干骨の本数が足りない、みたいな人もいるようですが)なので、本当は私たちもピアニストと同じパフォーマンスができる条件は揃っているんですよね。音楽性、表現力の差はあれど、テクニック的なことに関して言えば、みんな同じことができるはずなんです。ただ、私たちは身体のつくりや使い方の認識が間違ったまま、身体を使い続けるので、だんだんあちこち歪みが生じてきて、その歪みをカバーするためにより歪みがひどくなると言う負にループにはまってしまいます。だから本来弾けるはずのところが「弾けない」ことになるんです。わたしには無理!って思い込んでいるのもかなりブレーキになっていると思います。このメンタルブレーキも根強いです。

身体が歪んだ状態でテクニックを磨いてきた先生に教わるから、生徒ももれなく歪む。だから超絶技巧の曲が難なく弾けるような一部の人を除いて、多くの人が弾けない、弾けたとしても腱鞘炎になるなどあちこち痛めてしまうみたいな状況に陥ってるのかな〜なんて最近考えています。だって、「身体の正しいつかい方」という授業を受けることなんて皆無ですからね、ふつうは。

余談ですが、解剖学を学ぶのとはまた別の話のようです。実際にワークで「ここはこうやって動かすんですよ〜。あなたが思ってるより、ほらこ〜んなに動くんですよ。だから最大限に使いましょうね。」と先生に実際に身体を動かしてもらって脳に覚えこまさない限り、実生活では使えないんです。ネット検索くらいしかしない人が、あれこれ機能のついた高機能なパソコンを買ったもののほどんど使いこなせてない、みたいなことが身体の世界でも実際に起こっているんですね。私たち人間はとんでもなく高機能な生き物なんです。そのことをまずは思い出して、自分の可能性は無限大なんだと信じることが大事なんだと思います。

塾や習い事の前に。まずは身体を整える。

週一で通っている保育園の園長さんが、「こどもはまずは身体づくりが大事」と仰っていて、なんとなくその意味はわかっているつもりでした。でも、実際自分が身体を整えてみて、まずはからだを整えないと、知識やさまざまな技能を積み上げていくことができないし、無理矢理積み上げてみたところでうまくバランスが保てず、それぞれが調和して機能していかないということがよくわかってきました。

なんなら、私の教室の生徒さん全員にもロルフをお勧めしたいところですが、笑。その方が難なくピアノが上手くなるからです。おまけにピアノだけでなく、やりたいことが思い通りにできて、勉強も運動も仕事も、今よりもうんとやりやすく面白くなると思います。

勉強ができないからまずは塾に行く、というのも正直あまり意味がないのではと感じています。勉強ができない原因のひとつは身体を上手く使えていないからです(とロルフの先生も同じことを仰っていました)。原始反射も大きく原因しているようですので、身体の使い方を学ぶことと原始反射のワークの両輪で、そういうお子さんはかなり改善すると思います。グレーゾーンのお子さんは年々増えているように感じますし、そうでなくても、なんなら大人もこどももみんな一度は受けたほうがいいんじゃないかと思うくらいです。

生活が便利になればなるほど、私たちは身体や脳を使わなくなります。少しずつ世の中が機械化して便利になっていったわたしたち大人でさえ、便利さゆえに本来の成長過程を経ていないのですから、便利になって生まれた今のこどもたちはもっと深刻です。便利になるということはそれだけ身体や脳、思考力が退化するということです。必要な成長過程を通らずにスキップして、その歪みが積み重なって「勉強ができない」のですから、スキップしてしまった未発達の部分を後から経験させてあげて、「発達のヌケ」を埋めてあげるほうがいいんです。

とはいえ、私が思う「めちゃくちゃいい!」は全ての人にとっての「めちゃくちゃいい」ではないので。ピンときた方、興味を持たれた方は是非お試しください。世の中には「絶対」はありませんので〜。合う人合わない人は必ずいるとロルフの先生も仰っていました。そこもまた面白いなと思います。

身体が整って緩んできたら、感じる世界が変わってきました。

例えば、Aさんは厳しい人だなあ、ちょっと苦手だなと感じていたとします。でもある日Aさんとじっくり話してみたら厳しさもあるけど根はとってもあたたかい優しい人で驚いた、みたいな経験ありませんか。

人は見たり感じたりする世界すべてにかたよりがあるといいます。「頭じゃわかっているつもりだったけど」な体験を先日したばかりです、笑。

結局、いろんな方向から物事を見る、感じてみる経験を積み上げてみないと本当のところはわからないものだなとつくづく感じました。自分が今まで感じていた世界も確かにあったし、今新たに自分が感じている世界もある。正しい正しくない、いい悪いじゃなくて「感じ方」の違いなのかなと思います。

この変化は、身体が整って緩んできたおかげで心がオープンになった結果なのだと思います。

京セラの稲盛和夫さんがJALの再生のため会長に就任された時、幹部たちを集めて定期的に会議をしたそうなのですが、はじめはただでさえ激務で時間がないのに会議かよ!とブーイングの嵐だったそうです。でも、会議を重ねていくうちに次第に全員が稲盛さんのお話に真剣に耳を傾けるようになって、幹部だけでなく社員一人ひとりも変わっていって、それと共に会社の業績も伸びていったそうです。きっと稲盛さんは人間の器が大きく、心身ともに緩んでいた人なんだろうなとそのエピソードを聞いて思いました。

自分が整い緩めば自然と周りも緩む。身体も心も緩めば、みんなが自分のやりたいこと、自分の持てる力を最大限に発揮して、ひとりひとりが満足した人生、そしてもっと生き生きとした社会をつくることができるんじゃないかなと思っています。

まずは私自身がもっと緩みたいな〜とその過程を楽しんでいるところです、笑。ピアノももっと上手くなるはず♪楽しみです。

福岡でロルフメソッドを受けてみたい方は、西区姪浜にあるNORMAL BODYさんへ。九州初上陸!だそうです。深海先生、とっても優しくて親切ですよ。


2023.9.5

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